ペインクリニックで原発性多汗症を扱うのは不思議と思う方もいらっしゃるでしょう。
ペインクリニックは神経ブロックという注射を治療の中心に置いている診療科ですが、対象としている神経は、
感覚に関わる知覚神経や筋肉を動かす運動神経の他に自律神経もあります。汗を出す(分泌する)ところは
汗腺(かんせん)という器官ですが、これは自律神経が支配しています。そんな関わりから原発性多汗症を
診療するペインクリニックはいくつかあり、当院もそのひとつです。
【 多汗症ガイドラインにおける診断基準 】
原因不明の過剰な局所発汗が6ヶ月以上持続していることに加え、以下の6項目中2項目以上を満たす場合
「原発性局所多汗症」と診断されます
○ 両側性で、なおかつ左右差がないこと
○ 1週間に1回以上の多汗エピソード(汗にまつわる困った事象)があること
○ 家族歴(同様の症状をもつ血縁者)があること
○ 日常生活に支障があること
○ 25歳未満で発症していること
○ 睡眠時には局所性発汗がみられないこと
【 多汗症ガイドラインにおける重症度分類:HDSS※ 】
Grade 1:発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
Grade 2:発汗は我慢できるが、日常生活にときどき支障がある
Grade 3:発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
Grade 4:発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある
※ HDSS:Hyperhidrosis Disease Severity Scale
〈原発性手掌多汗症〉手のひらの多汗症
グランダキシンやプロ・バンサインをはじめとした経口薬、塩化アルミニウム外用薬、イオントフォレーシス
(手を水に浸して直流電流を流し、水素イオンで汗腺を障害する方法)を組み合わせて治療を始めます。
経過により内服薬や外用薬の増減・追加、イオントフォレーシスの出力変更を行います。
〈原発性腋窩多汗症〉脇の下の多汗症
最近保険収載された(=保険診療で処方できる)エクロックゲル(科研製薬)から開始します。経口薬として
は、グランダキシンやプロ・バンサインをはじめとした薬剤、外用剤として塩化アルミニウム製剤を使用する
のは手掌多汗症と同様です。
腋窩多汗症はイオントフォレーシスが効き難いので使用せず、重症度分類のGrade 3以上でしたらボトックス
注射を行います。ボトックス注射は、初診ではできません。薬剤使用に当たって患者登録をしないといけない
ことになっています。保険が利きますが、ボトックスは薬価が高いので、3割負担では再診でこれだけ受けた
場合でも2万数千円かかります。
〈原発性足底多汗症〉足の裏の多汗症
原発性手掌多汗症に準じます。足底のイオントフォレーシスは、両足を水に浸漬します。
〈顔面多汗症〉
グランダキシンをはじめとした経口薬、塩化アルミニウム外用薬を使用するのは手掌多汗症と同じですが、
これらが無効の場合は、自律神経ブロック法である星状神経節ブロック(SGB)をお勧めしています。
但し、顔面多汗症に対するSGBは保険適応がありません。
〈原発性全身多汗症〉
発汗部位が局所である(=限局している)原発性局所多汗症に対し、原因不明で全身に汗をかく場合は
「原発性全身多汗症」と診断されます。顔面多汗症に準じた治療をおこなうことになります。
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